ケン

毎年大晦日は父方の両親の家に行って餅を作った。全自動の機械に、蒸し布に包まれた餅米を放り込んで10分ぐらい放置すると餅が出来上がるので、それをちぎって丸める作業が我々の「餅作り」だった。父方の実家は極狭で、玄関前の8帖ぐらいの部屋に7〜8人ぐらいの親族が集まって作業をする。椅子の数は限られているので立ちっぱなしの人もいる。おれの母親は毎年立ちっぱなしで座ろうとしなかった。子供なりに心配して席を譲ったりしたが、頑なに座ろうとはしなかった。今思えば、姑にあたる婆さんの目を気にしていたんじゃないだろうかと思うが、本人の口から理由を聞いたことはない。最近は実家に帰った時に、母親と昔の話をすることが多くなった。幼い時分では推し量れなかった母の感情が聞き出せてなかなか面白い。椅子に座らなかった理由もそのうち勝手に話してくれそうな気がしている。

父方の実家は極狭ながら二階があった。老体では転げ落ちそうな木造の階段を上がると和室が二部屋あり、そのうちの一つの部屋は作った餅を乾燥させる部屋として使われていた。表皮の乾燥した餅は、肌荒れした白人の踵のようで気味が悪かった。もう一つの部屋は日中は何にも使われていない部屋なので、幼い頃は従兄弟と集まって好きなことをやっていた記憶がある。小学校3年の頃、年上の従兄のケンちゃんが、チラシの裏に適当な文章を書き上げたものを器用に折り曲げてポケット付きの長方形を作り、ポケットの上に「見たらお金カンパカンパ」というメッセージを書いて壁に貼り付けていた。その壁の方を見るたびにケンちゃんが「はい百円」「百円入れて」と間接的なカツアゲをかましてくるのが嫌で、翌年から現在に至るまで餅作りには参加していない。ケンちゃんの作ったカンパ袋がどうなっているか知らないが、ひょっとしたらまだ壁に貼り付いたままで、お人好しの叔父の入れた金が千円ぐらい溜まっているかもしれない。