団地に住んでいた頃、父が「週刊少年マガジン」を購読していた。物心ついた時から居間のテーブルかソファに最新号が置いてあるのが当たり前になっていた。幼い頃に「疾風伝説 特攻の拓」や「カメレオン」を読んだせいで、この先訪れる中学・高校生活は絶望的なものだと思い込むようになった。当時の週刊少年マガジンは情操教育としてあまり良くなかったと思う。

小・中学校の同級生に酣くんという人物がいる。小学4年〜6年まで同じクラスということもあり、仲が良かった。おれと同じぐらいの背丈で、似たオーラをまとっていたから話も自然と合った。なにより同年代では珍しく「週刊少年マガジン」を読んでいた(まわりは大概ジャンプだった)のが嬉しかった。しかし、中学校に入ってクラスが離れてからはお互いに違う友人と交流するようになり、酣くんとの距離は離れていった。中学3年生でまた同じクラスになったのだが、酣くんはレベルの高い高校に行くことを目標としているらしく「進学組」のようなグループに入ってずっと勉強をしていた。一方のこちらはレベルの高い高校に行くつもりはなかったので、土筆を摘んだり紙飛行機を折ったりして、進学組とは無縁の日々を送っていた。3年の夏、合唱コンクールの練習でクラス全員が並んだ際、おれの隣には酣くんがいた。久しぶりに酣くんと挨拶を交わす。酣くんは開口一番「クニミツ、観てる?」と言った。クニミツは「クニミツの政」のことで、当時週刊少年マガジンで連載されていた政治漫画。この年の夏にTVドラマがスタートしていて、それを観ているかどうかを尋ねてきたのだ。おれは偶然放送を観ていたので「観たよ、酣くんどう思った?」と返すと酣くんは一言「クニミツが『オレッチ』って言葉を使わないのが、納得いかねえ」と言った。「オレッチ」は 原作の漫画でクニミツが使う一人称で、ドラマ版で押尾学が演じるクニミツの一人称は確かに「オレッチ」ではなかった。そして「納得いかねえ」はクニミツがよく使う口癖だった。酣くんがそこまで「クニミツの政」に熱を入れてるとは知らず、反射的に「なんだこいつ」と思ってしまった。何か気の利いた返しをしようとしたのだが、合唱練習が始まったので、おれと酣くんは前を向いて同じ歌を歌った。